気まぐれな日記

ε(Phis)が気まぐれに書きなぐるブログ。

たまに書きたくなる化学ネタ

たまーに書きたくなるんだよね。実行に移すのは稀だけど。





読み物のレベルとしては高校2年から大学1年ぐらいだろうか。ただ内容はそんなに難しくないから興味があるなら中学3年ぐらいの人に読んでもらえるのが理想。
一応受験にも使える知識はあります、というより寧ろそれを教える為にその原理をある程度教えるというか…
わからなそうな単語については、最後に補足してあります。



炭化水素共有結合について。(炭素数2の炭化水素がわかりやすいと思うので説明にはそれを用います)

エタンはすべての結合が単結合、エチレン(エテン)は炭素間の結合が二重結合、アセチレン(エチン)は炭素間の結合が三重結合になっています。
炭素の手は4本!って言うのもこの図からわかると思います。寧ろ言われるまでも無くわかっていると思います。ちなみに手を表している線の名前は「価標(かひょう)」といいます。


「ねぇねぇ、二重結合と三重結合ってどうなっているの?つーか単結合もどうなっているの?」って思った人は居るだろうか。そんな人の悩みを払拭する為にお答えしましょう!…いなくてもそれを説明するんですがね!


結論を先に言いますと、「単結合はσ結合そのもの、二重結合はσ結合とπ結合、三重結合はσ結合とπ結合2つの結合」です。


共有結合にはいくつかの種類が有りまして、σ(シグマ)結合、π(パイ)結合、δ(デルタ)結合その他って感じになってます。


そして大概の結合はσ結合です。
その理由は「軌道同士がくっついていて無理の無い結合(つまり安定な結合)だから」とでも言えばわかりやすいでしょうか?
σ結合は電子軌道がくっついてそこにある電子を1つずつ共有する結合です。

その安定さ故に共有結合にはほぼ100%入っているといっても過言ではないかも。上記炭化水素の単結合、二重結合、三重結合のすべてについてσ結合は存在しています。(故に上記炭化水素の単結合はσ結合そのものです)


じゃあ二重結合、三重結合に内包されるσ結合以外の結合はなんなんだと。
結論がすでに書いてあるのでわかるとは思いますが、π結合です。
π結合は同じ接面をもった軌道同士がする結合です。

第二周期以降の原子(つまり最外殻の中にs軌道とp軌道を内包する原子)はsp混成軌道と言う軌道を作り出すことがあります、寧ろしょっちゅう作ります。
ここで、エチレンはsp2混成軌道を、アセチレンはsp混成軌道を作るわけです。(ちなみに、エタンはsp3混成軌道を作ります)
sp2混成軌道は平面に正三角形を作る軌道と考えていただければわかると思います。(残りのp軌道はその正三角形の平面に垂直に配置されます、「sp2混成軌道の正三角形の角の3本の手」と「p軌道の1本の手」をあわせれば4本の手です)

sp混成軌道は、一直線の混成軌道です。(残りの2つのp軌道はsp混成軌道の線に対して垂直な面である程度自由回転する形で2つとも配置されます、「sp混成軌道の直線の両端の2本の手」と「p軌道の2本の手」をあわせれば4本の手です)

エチレンの炭素原子は2つの水素原子と結合する時にsp2混成軌道の2本の手を使います。そして、残りの1本の手をもう一つの炭素原子とつなぎます。すると、三角形に垂直に出ているp軌道が1つづつ余ります。これがπ結合するのです。(ここでの軌道に対する接面はわかるとは思いますがsp2混成軌道の面です)
また、アセチレンの炭素原子は1つの水素原子と結合する時にsp混成軌道の手の片方を使います。もう片方は炭素原子同士でつなぎます。…あとは予想がついているかもしれませんが、残りの2つずつのp軌道が2つのπ結合を作ります。(ここでの接面は回転するp軌道に垂直な面です)


と、いうことでこのようなσ結合とπ結合の混合で二重結合と三重結合は成り立っているのです。




で。ここまで仕組みを覚えた上で。
読んでくれたみんなは、σ結合とπ結合、どっちが強いと思う?


図をある程度極端に描いたからわかりやすいと思うんだけど、もうなんていうか物理的にσ結合のほうが強いです。あまりエネルギー的な差はないそうですが、σ結合のほうが強いです。


受験的な知識になっていきますが、これが「付加」と「置換」の大きなエッセンスとなります。
付加も置換も炭化水素の反応では有名どころ。大学の受験をする人は知ってないとだめです。センターとかで化学を絶対取るはずなので文型ですら知っててもいいはずです。
付加も置換も、炭化水素をある条件下におけば結構簡単に起こる反応ですが、その情報だけではどちらが起こるのかわかりません。
このままではエチレンと塩化水素を混合してもクロロエタンになる保障は何処にもありません。可能性としては置換で塩化ビニル(クロロエチレン)、あるいは1,2-ジクロロエチレンになることすら考えられます。


しかし誰がなんと言おうと、π結合は少し弱い、少なくともσ結合よりは弱い共有結合なんです。


この事実があるということは、多重結合においてσ結合より優先的にπ結合が切れることを意味します。
つまり、エチレンに塩化水素を混合したら特殊な条件で反応を起こさない限りはπ結合がはずれそのあまった2つの手に水素と塩素がくっついてクロロエタンになるということです。
逆にもうσ結合しかないメタンとかは付加は起きずに置換という形で反応を起こすことになります。



以下、補足。


s軌道、p軌道とは
s軌道とは、すべての電子殻に内包される「電子の軌道」です。軌道の数は1つだけで、軌道の形は原子を中心に球の形をとっています。非常に安定した軌道であり、電子が一番優先的に入ってくる軌道です。但し、遷移元素とかの時は1つ外殻のd軌道とエネルギー的にほぼ同じだったりして一時的に抜けることもあったりします。
p軌道とは、L殻以降の電子殻に内包される電子の軌道です。軌道の数は3つ(px、py、pz)で、軌道の形はx軸、y軸、z軸向きに飛び出る中心に八の字の形です。エネルギー的にs軌道の次に安定である軌道です。
電子の軌道には、電子が2つ入ります。これ以上でもこれ以下でもありません。ちなみに、この2つの電子はスピン方向が互いに逆です。


※混成軌道とは
分子がより安定な形で残る為にある電子の軌道が合わさって出来た軌道のことです。d2sp3混成軌道だったらば、d軌道2つとs軌道とp軌道3つが別々に存在しているよりもこの混成軌道を生成したほうが安定な時に作られる、ということです。
物質が安定な方向に行こうとするのは自然の摂理です。これには文句をつけてはいけません。


※「エテン」や「クロロ」という名前について
エチレンってエテンって言うの?やらクロロクロロなんだいそりゃ。とか言う声が聞こえそうだから…
エテン、及びエチンはエチレン、及びアセチレンのIUPAC命名法に基づいた名前です。単結合だとアン、二重結合だとエン、三重結合だとインと付きます。例えば、ドコサヘキサエン酸って言うののヘキサエンというのは6つの二重結合を意味しています。
クロロと言うのもIUPAC命名法の中のもので、塩素を意味する言葉です。ちなみに、ブロモは臭素というのも覚えておくと少し役立つかも。



ベンゼンの特異性

亀の甲とも呼ばれる有名な化学物質、ベンゼン。みんな上の図みたいに習ったと思います。自分も高校までこれを使えといわれ続けてきました。
でもこの構造式、です。しかし、昔ベンゼンの構造式が謎だった時代にケクレさんの思いついた炭素の4つの手を完全に用いた素晴らしい構造式でも有ります。
ベンゼンはなかなか特殊な物質で、炭素はsp2混成軌道を取っています。その混成軌道の3つの手は、1つは水素とσ結合、残りの2つは隣接した炭素とσ結合しています。
そうすると、6つの炭素のp軌道があまっていることがわかります。そこでπ結合で2重結合を…
というわけには行かないんです。このp軌道はなんと、すべて等価に隣接した炭素原子のp軌道と結合しているんです。言うなれば、両方の隣接した炭素に対して0.5個分π結合をした、という感じです。
そうすると、なんか知らないけど妙に強い結合になります。と、言うか上図みたいに飛び飛びに二重結合のある環状分子なんて直感的に安定じゃなさそう、って思えたりしますよね?
物質は安定な方向に移動します。その結果がその様な特殊なπ結合を生み出したのでしょう。
で、です。結局のところ、これは二重結合ではないんです。そしてそれなりに強いんです。と、言うことは…
「簡単に付加反応は起こらない」という結論に持ち込むことが出来ます。
つまり、ベンゼンに塩素を反応させると(鉄触媒下)、付加反応を起こさずにクロロベンゼンが出来上がります。(但し、光触媒下では、その強い反応力によってベンゼンの構造を崩壊させヘキサクロロシクロヘキサンが生成します)



間違った情報やわかりにくいところがありましたら、是非コメントを下さい。加筆修正いたします。